menu

研究内容

概要

典型的な量子力学的現象は私たちの日常経験からは想像を絶するけれど、原子が量子力学に支配されていることを知ってしまえば、身の回りにある普通の現象が驚異的に見えてくる。物理学を学べば学ぶほど生じる乖離感を物理学にもとづいて克服したい。具体的には、非平衡系における創発現象や物質が示す生物機能などにおいて、定性的に新しい現象を開拓しつつ、新しい理論的枠組みを構築することを目指す。個々の研究テーマは構成メンバーが主体的に考えるが、最近の主な研究課題について以下で紹介する。

研究課題

非平衡系における創発現象

原子分子の集まりが生物を構成しているのは紛れもない事実である。生物が示す機能が物質科学の概念とどのように関わっているのだろうか。そのためには、微視的な構成要素がたくさん集まって巨視的なシステムをつくるとき、微視的な記述にはない概念や量がマクロなレベルで創発する機構を探索する必要がある。平衡系の場合には、一般的枠組みとして統計力学が確立しているので、創発の理解は統計力学の中の問題になる。ところが、非平衡系の場合には、現象の解明と同時に新しい理論的枠組みの構築が必要になる。そのような方向の研究として、近年は、熱伝導下での気液共存やずり流動下での長距離秩序の研究に注力している。これらの現象では、平衡の近くであっても平衡状態からの非平衡性に関する素朴な摂動展開が破綻し、平衡極限が特異的になっている。ゆらぎの理論、熱力学の拡張理論、数値実験などを使って理論的解析を進めている。

ゆらぎの理論から生物機能評価へ

分子モーターなど生体内にある小さな機械は、ゆらぎを伴いながら働いている。このような小さい機械でも熱力学第2法則を満たさないといけないが、それは平均値に対する不等式として表現されることになる。ところが、ゆらぎの部分まで含めると、その不等式を生み出す「普遍的な等式」が存在することが分かっている(ゆらぎの定理)。その発見に刺激を受けて、様々な普遍的な関係式が見いだされおり、それらにもとづいて生物機能評価を行う研究をすすめている。近年では、情報論的不等式にもとづいてゆらぎの性質を再構築する研究をすすめている。

その他

ここ数年の間に行った佐々グループが関わった「その他の特徴的な研究課題」は以下のとおりである。

 

〇微視的な可逆力学系と巨視的な不可逆現象の関係をランダムネスの理論にもとづいて議論した。

 

〇オンサーガの理想乱流理論にもとづく解析により、量子乱流の理論的解析および気液臨界点近くでの新しいタイプの乱流が生じることを提案した。

 

〇時間依存ハミルトン系において、時間に関する非一様な並進に対する対称性に関するネーター不変量として熱力学エントロピーを特徴づけた。