2023年度 神戸大学理学部理学研究科集中講義 構成 [更新 23/12/08]

講義題目  先端物理学(特別講義)素粒子理論特論A
「ミクロな可逆性とマクロな不可逆性をめぐって」

講演者       佐々 真一 
     
日時、場所:  12月6日(水) 3限  〜 5限    Z302
       12月7日(木) 3限  〜 5限      Z101
       12月8日(金) 2限  〜 3限      Z402
       3限開始は、13:20 

談話会 非平衡 ー学問分野の発展と熱力学の拡張ー 4限
 

1章 ガイダンス (12/06 3限)

1.1 動機: 統計物理とは
1.2 講義でとりあげるテーマと講義の目標  

2章 孤立古典多体系:設定 (12/06 3限)

2.1 運動方程式
2.2 エネルギー保存
2.3 時間反転対称性
2.4 可逆性のパラドックス

3章 孤立古典多体系:基礎 (12/06 4限 -5 限)

3.2 平衡状態の特徴づけ
3.3 エルゴード性
3.4 カオスの例
3.5 例題によるカオスの基本的性質の確認
3.6 ハミルトンカオスの基礎

4章 可逆性のパラドックスの定量的理解 (12/06 5 限)

4.1 簡単な例 (大自由度パイコネ変換)
4.2 例による「平衡に緩和する軌道」の「巨視的安定性」の確認
4.3 例による「平衡から離れる軌道」の「巨視的不安定性」の確認
4.4 ハミルトン系での描像と予言

5章 流体方程式の現象論的導出 (12/07 3限)

5.1 基本的な考え方
5.2 熱力学第2法則が与える形の制限
5.3 対称性と最小形による一意決定

6章 流体方程式の統計力学的導出 I (12/07 4限 -5限

6.1 設定
6.2 局所平衡分布
6.3 局所保存量のダイナミクス
6.4 3つの恒等式による一般論


7章 流体方程式の統計力学的導出 II  (12/08 2限)

7.1 復習
7.2 長波長展開
7.3 Euler 方程式の導出
7.4 Navier-Stokes 方程式の導出 

8章 ゆらぐ流体方程式 (12/08 3限)

8.1 オンサーガ理論の基本的考え方
8.2  ランダウ教科書の「ゆらぐ流体方程式」の位置づけ
8.3  問題:裸の輸送係数とくりこまれた輸送係数
8.4  ミクロからの導出のひとつの考え方


談話会 非平衡 ー 学問分野の発展と熱力学の拡張 ー

要旨:流れや運動が本質的になる「マクロに動く世界」に対して、
平衡系との対比を通して現象を理解したい。その動機にそって、
豊かな現象を記述し、異なる階層間の関係を理解することで、現
象の機構を明らかにする営みがなされてきた。談話会では、まず、
19世紀から21世紀にわたる非平衡物理の大きな流れについて
振り返る。その流れの中で、「熱力学は非平衡に拡張されるのか」
という論点を切り出す。熱力学の拡張に関するレビューをしたあ
とで、熱伝導下相共存状態の熱力学量について問う。例えば、1
気圧下の水を95度と105度の熱浴で挟んだときの気液界面が
何度であるか、という基本的問題に対して、理論・実験ともに確
固たる結果がないのが現状である。熱力学を非平衡へ拡張する枠
組みである「大域熱力学」はその問題に答えることができて、1
00度から有意にずれることを予言する[1,2]。この大域熱力学
の基本的な考え方と最近の数値実験の結果[3]について紹介する。

[1] N. Nakagawa and S.-i. Sasa, Phys. Rev. Lett.,119, 260602 (2017)
[2] N. Nakagawa and S.-i. Sasa, J. Stat. Phys.,177, 825-888 (2019)
[3] M. Kobayashi, N. Nakagawa and S.-i. Sasa, Phys. Rev. Lett.,130,
247102 (2023)